『Drifters in Tokyo』の製作について

僕はこのタイプの、どバラード未満ぐらいのキレイめな曲が最も得意だとよく公言しているんですが、得意と言っておきながら全然作ってなくて、多分「Boat33」以来10年ぶりぐらいに本領を発揮したような曲を作った気がします。

まずはこの文章読むにあたってBGM必要じゃないですか?
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noriboooooneというミュージシャンについて

この曲の作成過程を説明するのには、まずnoriboooooneというミュージシャンについて説明した方が良いかなと思います。
この人はGQ06、pygmy with bitter endsTAPE ME WONDERというバンドで活躍してきていて、ボーカルの他に作詞作曲アレンジプロデュースギターと、何でもやっちゃう天才肌のミュージシャンです。

基本的に僕は、音楽に関しては自己評価が大変に高いので、他人の能力に嫉妬するような事は少ないんですが、今まで数百人のミュージシャンに出会ってきた中でたった5人ぐらい「あれ?勝ててなくない?これは悔しいぞ?」みたいな嫉妬を感じさせてくれた人がいて、その中の1人に入る、本当に能力の高いミュージシャンです。

その、幅広い能力の中でも突出しているのがアレンジ能力だと僕は思っていて、彼はバンドアンサンブルを作るのが滅法上手いので、もし知らない方がこれを読んでいるなら、是非彼が自分のバンドで作ってきた音楽を聴いてみてほしいです。

何故僕がnoriboooooneの能力に嫉妬までしなきゃいけなかったかというと、自分と同じレベルのアレンジ能力を持っている上に、良い歌い手でもあるという点です。

僕は、ボーカリストとしての彼を井上陽水や玉置浩二の系譜だと捉えています。それは、モノマネしたくなるようなクセの強さ、どこか飄々とマイペースに音楽を楽しんでいる雰囲気、それでいて凄まじくシリアスに歌を歌うところが共通していると思っていて、彼らの本質は音楽に対するシリアスさだと。
3人とも、歌ってる時の目つきが似てると思います。

なかなか彼に宛てられる曲が作れなかった話

実は、彼は僕のソロプロジェクトに前々から期待を寄せてくれていて、参加させろというラブコールを何度もいただいていたんですが、この10年以上に渡って一切そのラブコールに応えることがありませんでした。

彼は、その能力の高さゆえ、自分の特殊な歌声に最適な作曲をして最適なアレンジをして、最適なメンバーと素晴らしいバンド演奏をし続けてきています。僕は何度もnoriboooooneをフューチャリングしようと彼の声を脳内で鳴らしたんですが、どうしても彼のバンドの劣化版みたいなメロディばかりが浮かんではボツにしていました。彼は、彼の声が最も似合う曲を、もうアルバム10枚分ぐらい作っているのです。なかなか違うカラーの楽曲をフィッティングさせるのは難しい。
でも、せっかく才能を認めあえる先輩に歌ってもらうなら、彼がやってきたバンドとはまるで違うカラーの曲で、周りの仲間がドン引きするぐらいのクオリティにしたいという欲を大事に温めてきた結果、割と自分にとって大事なタイミングで彼に登場してもらえることになりました。

曲が生まれた経緯とカノン進行

この曲は、今年(2022年)の頭ぐらいに、今のアメリカのポップスの構造をトレースしようーみたいな気持ちで車の中で歌ってたらBridgeのメロディ(Hello Helloのとこ)が出てきたところから始まりました。その時点では黒人女性の声をイメージしていたんですが、僕が黒人女性のどういう要素がこのメロディに合うと思っているのかを分解して考えたら、シリアスさなんじゃないかなと思ったところでnoriboooooneさんの名前が再浮上しました。

改めて、noriboooooneの声でメロディをイメージし直した時に、こりゃイケるぞと、割と脳汁出た状態でAメロがサクッとイメージできまして、ああこれはさっさとスケッチしようと、オケ作りに入りました。

車の中でメロだけ作ったものにコードをあててみたら、期せずして僕の生涯初めてのカノン進行になっていました。実は僕は今まで数十年の作曲人生の中で、一度もカノン進行を使ったことがありません。これは自覚していたので、「一回ぐらい作ってみよう」と思った事は何度もあったんですが、この進行はベタすぎてダサいんですよね。よくこんなダサいコード進行で希望の轍やロケットダイブみたいな素晴らしい曲が作れるなーと、モヤンとしたまま断念していました。

それが特に意図せずできてしまい、この「僕の生涯初めてのカノン進行」というちょっとした特別な思い入れが生まれて、楽曲はすくすく育っていって、その日の晩には7割方の輪郭が完成して、完全なる自信作になるだろうと確信できました。

メインパートのシンセメロディが浮かんで、SERUMで数分音選びをしてみた結果、なんとなく「こういう音はOmnisphereの方が向いてそうな気がするなー」と思って大奮発して買ったら数分で理想的な音が見つかり、やっぱspectrasonic最高だぜ!となったのも思い出深いです。この辺も僕の歴史に残るレベルの安産を物語ってます。

MVの制作

安産といえば、MVについても僕からすると安産でした。

「終わりなき祭りの後」のMVを作る時に、カメラマンとして手伝ってくれたすみじゅんが、僕が思っていたよりもガッツリ映像の勉強をしていて、「ねえこの曲だったらどういうのがいいと思うー?」って聞いたら、いくつかのサンプル映像を出されて、その時点でイメージが完全に合致したのを感じ、僕史上初めて監督・編集を他人に任せたMVができあがりました。

曲の雰囲気や六本木というしちゅえーしょんに合うかなーと思って数年来のお友達であるmaiを呼んだところ、すみじゅんのカメラワークにバッチリハマってくれて、本当に良いMVが出来上がったと思います。

今まで僕が自信作を何度出しても10万回以上聴くことがなかった皆さんも、今回ばかりはそうはいかないんじゃないか。1億回ぐらい聴いちゃうんじゃないか、そう思っています。
みなさん、1億回聴いてください!

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