音楽理論は酒のつまみ

僕が音大出身だからか、なんか理論的に作曲をしてると思われてるのか、そういう勉強した方がいいすかーみたいな質問をたまにされた記憶があります。その度にすっきりした回答ができなかったんですけど、最近連続してそういう話になった事があって、自分は音楽理論ってこういうもんだと捉えてるよ的な話を脳内整理したら結構なボリュームになっちゃったのでこちらで。

勉強すると良い曲が作れるなんてそんなわけない

恐らく、先輩に音楽理論を質問しようという子が知りたいのは「良い曲の作り方」なんじゃないかと思います。
その場合、「じゃあ良い曲ってどんなんだよ?」という問いにメロディで答えなきゃいけないわけで、そんなものの作り方など、どの教科書にも載ってません。
僕もそれが知りたくて親父に渡辺貞夫さんのジャズスタディという名著を勧められた事がありますが、マジで何書いてあるのか分かりませんでしたし、アレがわかったところでヒューマンネイチャーみたいな曲ができるかといえば、恐らくできません。
音楽理論を勉強すると良い曲作れるんであれば、音大生みんな良い曲作れちゃいます。メロディ作ってる時の作曲家っていうのは、英語ペラペラのネイティヴがSVOとか意識してないのと一緒で、素人と同じ土俵で良い曲をイメージしてるもんです。良い曲が作れない、作りたい曲がどういうものか分からないという悩みがある場合、それは単に才能が無いという事なので、作曲しない事をお勧めします。いやマジで。

売れる曲を作るセオリーはある

前述の通り、良い曲の作り方は「作れよw」って話でしかないんですが、売れる曲を作るセオリーってのは確実に存在します。ただそのセオリーってのはそんなにアカデミックなものではなくて、
「鼻歌で作る」
「人に聞かせる時はガチガチにアレンジして売り物にできる状態にしてから聞かせる」
「自転車で作る」
「サビから作る」
「男性ボーカルの場合、トップキーを出させない」
「とにかくキメを入れまくる」
「名曲1曲を作ろうとせず、佳作100曲作った方が良い」

というような、いわゆるオッサンの経験則の類いのものです。
こういうのって社会人デビューした新卒に先輩社員が言ってくれる類のやつに似てて、「オッサンうるせーな」とも思えるし、でもふと振り返った時にとても貴重な情報だと感じたりします。

こういう情報を取りに行くってのはアリだと思いますが、注意したいのが飽くまでこれは日本で売れるための王道セオリーでしか無くて、ナイン・インチ・ネイルズや坂本龍一がこの辺のセオリーを知った上で遵守してたかというと、そんな感じはしません。

理論派ってそもそも勉強家の事じゃないと思う

僕は憧れのアーティストみたいになりたいという一心で音楽始めたので、基本的に模倣から入ってます。多分こういう人が一番多いんじゃないかな。理論書には作曲の方法なんて書いてないんですよね。

理論派っていうのは、人から教わった理論に従って音楽作ってる人を指すんじゃなくて、事象→分析→法則ゲット→応用というプロセスを回すタイプの人の事を言うんじゃないかと思うんですよね。さらに、この回転を経験則の範囲内に収めず、より早めるために知識を入手するわけです。そういう意味では僕も理論派なのかなーと思います。別に音楽に限った話じゃなく。

音楽理論を学ぶ事を勧めたい人がいるとしたら、こういう人だ

1.打ち上げで小難しい単語で音楽の話してる人達がカッコイイ。僕もそうなりたい。

評論ができると楽しいので、そのために!というんだったら音楽理論を学んだ方が良いと思います。
打ち上げの席で「君のギターソロ最高だったね。あれミクソリディアン意識してる感じ?」とか「君が代ってCメジャーなのにDで始まってDで終わるよね?」みたいなネタで盛り上がるのは楽しいです。

2.良い曲は頭に浮かんでる。それはこういうメロディだと口ずさめる。でもちゃんとした楽曲にならない。

これは編曲ですね。編曲をしたいんであれば理論が役立つ場合が多いです。「超良いメロディ浮かんだけど、これはコード何つけたらいいんだ?」とか「超シンプルなコードで名曲作ったけど厚み出すようなアレンジしたいぜー」みたいなシーンでは、理論をしっておくと割とそれができます。ただし、「その場合は4度でハモりましょう!」とか「厚みを出す時は7thコードです!」みたいな事は一切理論書では教えてくれません。理論書は分析結果を報告してくれるだけです。なので、アレンジに役立つのは血肉となってマイセオリーになってる理論だけです。

3.ジャズ・フュージョンが好きだ

僕はロックが好きなので、「理論的に楽曲を作る」という実感が無くてこういう事書いてるわけですが、ジャズやフュージョンが好きで、そういう曲が作りたいとかそういうプレイがしたいという場合は、モード旋法ぐらい理解できてないといけないのかも知れないです。もしかするとその場合は、一から理論を勉強した方が早いのかもしれない。ここ専門外なのでよく分からない。

聴音能力はアカデミックに鍛えるとお得

音大を受験しようとすると必ず聴音のテストがあるんですけど、これは大いに役立ってます。

音を聞いてそれを譜面に起こす訓練で、ちゃんとカリキュラム通りにやれば誰でも耳が良くなります。絶対音感が無くても、訓練すれば鳥の鳴き声も譜面に書けますし、ノイズの音程も聞き取れます。楽曲聴いた時にコード何使ってるか分かるようになりますし、ベースラインだけ聴こうと思えばそのベースラインが何度の音出してるか分かります。

これを大学受験の時わずか2年間ぐらいですけど訓練したことで模倣がものすごく捗ったし、模倣が捗ると分析と法則化がしやすいので、そこから色々盗んだのが理論といえば理論なんだと思います。

まとめ

  • 理論を学べば良い曲が作れると思ったら大間違い
  • 酒のつまみには最適だ
  • ちゃんと血肉にできてればアレンジやプレイには大いに役立つ
  • 本気で音楽やるなら理論を学ぼうとする前に聴音の訓練を受けた方が良い

これも飽くまでオッサンの経験談でしかないので、そこら辺注意してほしいんですが、そもそも今から音楽やろうという若者がこれ読んでないだろうと思ってだいぶ無責任に申しております。