ユーザーは自分の体験を分析しない

こないだ、とある会議で今ひとつ自分の訴えたかった事が伝えきれなかったのがモヤンとしたので、いちいちブログに書こうと思います。

結論は以下の2点です。
そんなの分かってるという方は流し読みでも良いと思います。僕も非常に当たり前のことを書いてるつもりです。

結論

  • ユーザーは作品やサービスの魅力を、感じてはいるが分析はしていない。
  • 選択肢アンケートはこの事実を、おもむろに食らう。

あるサービスを利用しているユーザーに「そのサービスを利用している理由を教えてください」というアンケートをした結果、その理由に「デザインの良さ」を挙げた人数が非常に少なかった。というデータを拝見しました。

当然そのデータに基づけば、デザインより、機能や価格といった他の要素に比重を置くという判断になるんでしょう。

これにモヤンとしたので、ちょっと説明をしたんですが「あれ?なんでこんなに基本的なことなのに上手く理解してもらえないんだ?」と思ったので、いちいち記事にしようと思いました。

さて、私達は日常的に、スマホに現れたリンクボタンを押して他のページに遷移し、あらゆる選択をします。

このほとんどのボタンにおいて、世のデザイナーさん達は肯定的な選択肢を右に置くか左に置くか、その色やサイズを、まるで心理学のように計算しています。ボタンだけじゃない。ロゴやアイコンのひとつを取っても、至ってロジカルな計算をしています。
この計算内容は、ユーザー側に立ってみるとそもそも推察しよう分析しようという意識の外にいることがほとんどです。

音楽でいうとアレンジやミックスがまさにこれです。
ふつう、音楽を聞いて「うわこれミックスが最高だね」という理由では感動しません。しかし、これは多くの人が知らないと思うんですが、ミックスは音源のクオリティを50%ぐらいは支配しています。いやもっとかも知れない。

その辺のダサいバンドでも、一流のエンジニアさんがミックスしたら相当かっこよくなりますし、超一流バンドでもガタガタのミックスをしたら絶対に売れません。
馬鹿にすんなと思われそうですがこれはマジです。ミックスはそれぞれ皆さんが知らないところでもの凄い影響力を持っています。

アレンジも同様です。小林武史さんがアレンジしてなかったら駄作だっただろうと思う曲は、列挙したら止まりません。そして実際に私がそう思っている曲名をここに挙げても絶対に共感してもらえないと思います。それを加える前から名曲だったという「嘘」をつくのが、アレンジやミックスの使命だからです。
お化粧と一緒ですね。

例を重ねるなら、美味しいと思ったカレーに、どんなスパイスが入ってるかも、普通は分かりません。それにも似てる気がします。
「このカレーのどんなところが美味しかったですか?」という質問に対して「カルダモンの香りが良かった」という回答選択肢があったとして、何人に押されるでしょうか。
それを基準に「よし、回答数が少ないからカルダモンの品質にこだわるのはやめよう!」として良いでしょうか。

消費者というのは、自分が買ったもの、使ったもの、体験したことを(同業者やそれに近い興味を持つ人間を除けば)分析などしていません。
逆に言えば、プロというのは、消費者から見て「何でそれが最高なのか分からないけど、とにかく最高なもの」を提供している事が非常に多いのです。

何年か前からよく言われる「ユーザーの声を聞くのではなく、ユーザーの行動を見よ」というやつは、こういう背景もあったりします。

全面的に「アンケートは良くない」という話ではありません。今もなお、顧客の声を聞くことは有効である場合も少なくない。しかし、アンケートにおける質問のとりかたには充分な注意が必要であるということです。
この辺のお話に関連する仕事をしている人にとっては基本のキみたいな話ですが、たまにこの基本に欠いたような調査をしてしまうことや、見かけることがあるので、その度に思い返しておきたいなと思った次第です。

もう一度結論

  • ユーザーは作品の魅力を、感じてはいるが分析はしていない。その場合、作品の魅力を充分に説明することはできない。
  • 選択肢アンケートはこの事実を、おもむろに食らう。その場合は、声を聞くよりも行動を観測した方が正確に調査ができる。