カスタマーサポートの指標(KPI)設定方法

カスタマーサポートの責任者にとって、目標・KPIの設定というのは難しい課題です。
顧客満足度(C-Sat)やNPSを単純に計測しても上長に納得してもらえないという方、どういった指標を持てば良いのか分からないという方も多いのではないでしょうか?

カスタマーサポートのKPI設定というのは、会社の目標やサービスの性質によって最適なやり方が変わってきますが、基礎的なKPIの捉え方については説明ができるんじゃないかと思います。

まず、現在定番と言われている指標と、それらを単独で追った場合の問題点について説明します。

現在スタンダードに取り入れられている指標と、その問題点

1. 顧客満足度(C-Sat , Customer Satisfaction)

カスタマーサポートにとって、最も有名な指標がC-Satです。問い合わせ対応が満足であったか不満であったかを、問い合わせが解決する毎にアンケートメールで収集して、「満足」に該当した割合をパーセンテージで表すものです。

この指標は、さして何も考えずに「満足」が選択される傾向があり、比較的簡単に90%程度まで数字を上げることができてしまい、上げ止まってしまうのが問題点として挙げられます。

また、プロダクトに対する不満と、問い合わせ対応に対する不満が混在するため、データとしての純度が低くなりがちで、後に述べるような、他の指標との相関がなかなか取れないという特徴もあります。

2. 初回返答時間(ファーストリプライタイム , FRT)

問い合わせメールをいただいてから、一旦それを返信するまでにかかった時間の中央値を取った指標で、そのセンターがどれぐらいのスピードで対応ができているかを表すことができます。

これはCSにとって非常に重要なのはお分かりいただけると思うんですが、これもC-Sat同様にあるレベル(だいたい相場で中央値で4時間前後でしょうか)で上げ止まります。

C-Satとファーストリプライは、「現在非常に低い」という状況の時に短期目標として設けるのが

3. NPS(ネットプロモータースコア)

会社・サービス・ブランドを他人に勧めたいか?という「推奨度」を測定するアンケート方法で、継続利用率と強い相関があるとされていることから最もKGIに近い指標だと話題になりました。

説明の通り、特に問い合わせ対応に対する質問をしているわけではないものなので、このスコアが出た時点でカスタマーサポートとして具体的な打ち手を講じることができないという問題点があります。

4. CES(カスタマーエフォートスコア)

顧客が○○をするのに「どれだけ苦労を強いられたか」について7段階で調査するアンケート手法です。

使い方を正しく知っていれば問題ありませんが、これは単一の指標となるものではなく、カスタマージャーニーの中でどのポイントが痛点になっているかを探し出すためのものです。

5. 対応件数・処理時間・エスカレーション率など、コスト削減系

対応件数を始めとした、これらの指標をメインKPIにするということは、裏返せば「テンプレートを使ってバシバシさばいてしまう」ことを推奨しているようなものです。CSをコストセンターと見なすならばこういったKPIになるのでしょうが、サービスの重要な一部と捉えるのであれば、乱雑な対応は避けたいところです。

指標を立体化する手順

上記に挙げたような定番の指標を、単一で永続的にKPIとするのはあまり良いやり方とは言えません。しかし、これらはより細かい分析をすることによって、期限付きの目標を作ることができます。
ここでは、その簡単な手順について説明します。

1.経営目標と最も相関するアンケートを探してKPIとする

まず、NPSを含めてあらゆる形式のアンケートを取ることから始めます。
アンケートの取り方として参考になる書籍として渡部弘毅先生の『お客様の心をつかむ心理ロイヤルティマーケティング』をお勧めいたします。

この本に紹介されているアンケート採取方法を参考に、私の見解も含めたアンケートの内容としては以下の通りとなります。

  1. NPS、その他事業KGIと相関しそうな質問方法を複数並べておく
    ※サブスクリプション系のサービスでチャーンレートとの相関を取りに行くなら「1年後もこのサービスを継続していると思いますか?」または、「ご利用開始時に実現したかったことは達成できていますか?」といったような質問が相関しやすいです。
  2. 顧客が体験したことを、Yes/Noの二択で取る
    ・店舗に訪れた際に気持ちの良い挨拶をされた はい いいえ
    ・○○をする際にマニュアルを探せなかった はい いいえ
    といったように、ポジティブな体験、ネガティブな体験をそれぞれ体験したかどうかを何問もアンケートしていきます。

2.KPIに決めた指標を、セグメントや他アンケートで分解し、打ち手を探す

例えばNPSをメインKPIとする場合、推奨者・中立者・批判者に分けて、それぞれの傾向を分析します。

批判者の多くが、先に例を挙げた質問で「マニュアルを探せなかった」と回答しているなら、そこがサービスの痛点なので改善すると良いでしょう。
逆に、こういったことは無いでしょうが批判者の多くが「店舗で気持ちの良い挨拶をされた」と回答し、推奨者の多くがそのような経験をしていないのであれば、気持ちの良い挨拶をせずに放置しておいてくれた方が良い、と結論づけることもできます。

KPIはアンケート結果だけでなく、サービスが保持している顧客データでも分解します。利用者の年齢・性別・居住都道府県からサービス特有の主要なデータなど、あらゆる角度から切ってみます。

端的に例を挙げましたが、KPIはさらに深堀りして分解していくことで、サービスの痛点を洗い出し、打ち手につなげていくものです。
永続的に使えるKPIを探すのではなく「今期の目標」を定めるのに使うつもりで限定的な指標を取りに行くと、きっと上手くいくでしょう。

分析にリソース投資をする余裕を勝ち取る

実際に、こういった分析が進んでいるカスタマーサポート・カスタマーサービスチームというのは、私が知る限りではほとんどありません。
理由はただひとつで、CSが忙しいからです。
効率化を進めてしまったが故に、手を動かしてばかりで頭を使う余裕の無いチームが非常に多く、そういった方々はデータを分析するどころか、こういった記事などの情報を目にする余裕も無いのではないでしょうか。

カスタマーサポートにおいて、最初の一歩は「問い合わせ対応以外の価値創出をするための余裕」を勝ち取ることだと思います。

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