思い出が増える度に夏が好きになる

むかーしむかし。
まだ私が非正規派遣社員としてコールセンターでオペレーターやってた頃の話。

その業務では、私がいたコールセンターとは別に、事務センターが所沢にありました。
ある夏、そこの事務処理がだいぶ追いついてないのでヘルプをお願いできないかという募集がありました。

条件が良かったので、確か3〜4日ほどヘルプに行くことにしました。
せっかくの夏なので、冒険っぽいことがしたいと思って所沢まで自転車で通勤しました。
そのセンターは超絶涼しくて、一緒にヘルプ参加することになったいつもの仲間や、エスカレの時によくお名前だけ聞いていた人に囲まれて、黙々と事務処理をやっていました。

「うがちゃん、こういう作業早いねー」
「あー、確かに得意かもー。俺的にはこうやるのがコツだと思ってるんだよね」
「なるほどー」
ミーンミンミン

という情景が、夏休みに友達んちで宿題やってるような気分で、不思議と心地よさを感じました。
2日目でしょうか3日目でしょうか。業務を終えた私は独り自転車で帰宅してる最中、マップ表示していたiPhoneの電池が切れてしまって完全なる迷子になりました。
その頃を知る方には思い出していただけると思うのですが、当時のiPhone(多分4か3GSの頃)はすぐに電池が切れたし、モバイルバッテリーもまだそれほどマストアイテムとして携帯されてなかったのです。


方向感覚を失ってから数十分自転車をこぐと、大きな川だか湖のほとりっぽい場所にある、ジャングル状の場所に行き当たりました。
その景色にはは、取り立てて美しくもなく、嘘かと思うぐらい陽が照りつけ、整備されていない緑の匂いが漂い、どこへも道が繋がっていない雰囲気で、そのささやかな絶望感は冒険そのものでした。
小学生の頃に川の最上流を見に行こうとしてものの数時間で絶望させられたのと同じような、夏というより夏休みっぽさを強力に感じさせます。私はこのピンチにおいて、次元大介かと思うぐらい「面白くなってきやがった」と思い、テンションが上がりました。

その頃やっていた業務というのは、地デジのアンテナ設置に関する業務だったのですが、その甲斐あって「あ、そういえばパラボラアンテナって南西に向いてるんだっけ」と思い出し、なんとか住宅のパラボラアンテナの向きと青看板を頼りにハンドルを切り、「ここからならノーガイドで帰れる」ゾーンである東八通りに差し掛かった段階で適当な店で一杯ひっかけ、その後帰宅したころにはもう夜中でした。

この日、不意に訪れた夏休みの冒険は、これといった楽しさも無いくせにやたらと思い出に残りました。子どもの頃から今に至るまで、暑いのは嫌いなままなのですが、こういった夏の思い出が積み重なるごとに夏が好きになっていっている感覚はあったりします。

毎年、ジリジリと肌を焼くような暑さを最初に感じた日にこういうのを思い出すので書きました。