2.3nostalgicについて

ugazinのアルバム「2.3 nostalgic」がリリースされました。

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制作の概要

この作品は主に2005年前後、僕がMONGHANGにいた頃に作った曲が中心となっています。
元々、ソロアルバムを1枚作ろうと思っていたものを、コンセプトごとに分割して2.1pathetic2.2flashback〜2.3nostalgicになり、制作に苦戦しすぎて構想開始から20年程度の時を経てリリースに至ったのが今になります。

アルバムを分割するにあたって、2.2flashbackが原色でカラフルな作品に、2.3nostalgicは中間色でアコギを中心にチェロを絡めたような木製のアルバムにしようと考えました。
2.2flashbackはヤンチャで手に負えない次男っていうイメージで、チャレンジングで実験的な曲をなんとか自分の納得いくアレンジにするべくどんどん形を変えていった、ブラッシュアップの思い出が多いアルバムなんですが、本作2.3nostalgicは手のかからない長女という感じで、最初にできた時から楽曲として優秀で、20年近く手元に置いていながら作曲当初とほぼ姿を変えていない曲が多いです。

なので、どちらかというと作品を仕上げた今年よりも作曲した当初に苦労した思い出が深いです。
このアルバムは、極力エレキギターを使わずにアコギとMIDIで作品を仕上げてみようと決めていました。今でこそシリーズ3や4でエレキギターが全く使われてない曲を平気で作ってる僕ですが、当時はそれが難しくて、「え、エレキギターでパワーコード弾かない場合はどうやってコード感出したらいいんですか」みたいなところですごく悩んでたのを思い出します。

あと、これは今年最終アレンジとミックスをしている段階での話ですが、2.2flashbackがコンセプトアルバム然としているのに対して、本作2.3nostalgicはどの曲を単品で聴かれても良いように全曲シングルのつもりで取り組みました。ボーカリストが比較的ビッグネームなので、例えばSOUL’d OUTファンの方は3曲目だけ聞くとかcokiyuファンの方は6曲目だけ聞くみたいなことが多々起こりそうだなと思い、前後の文脈を意識させないように仕上げています。

1.今朝の陽 feat.知久寿焼

たまのメンバーは「元たま」と言わなくても名前は通じるから凄いですよね。知久寿焼さんに歌っていただきました。
実はこの作品、2006年にボーカル録音が終わっており、なんと16年も塩漬けにしておりました。本当に知久さんには申し訳ない気持ちを抱えたまま長い期間を過ごしていた中、いよいよ今年出すぞ!と思ったわけなんですが
「いやー16年も経て今さらリリースさせてくださいとか連絡するの気が引けるわー」と思ってたところ、
とある美術家さんの個展に行ったらそこで知久さんとバッタリお会いできて、奇跡みたいなかたちで「今年リリースさせてください」とお伝えすることができ、快諾いただきました。
その時、本当にびっくりしたんですが知久さんが「覚えてるよその曲」って言って、その場で歌詞をそらで歌ってくださったんですよね。知久さんとバイバイした後に軽くスキップで渋谷歩きました。

たまが解散する前、2002年に自分のイベントにたまをお呼びして出演していただいたのがきっかけで連絡先を知っていたのでダメもとでお願いしてみようと、知久さんに歌っていただくならどういう曲がいいかなーと妄想したのがこの曲でした。僕史上すごく非常にとても珍しく詞先で浮かんだ曲だったので僕が作詞をしています。
「すぎの扉」というワードが含まれている大サビみたいなところがちょっと気に入ってて、小学生の時に好きだった音楽の先生が、蛍の光の歌詞に掛詞が使われていることを授業で教えてくれたのがすごく心に残っていて、そういう歌詞をここに宛ててみようと思った次第です。

いわしのこもりうた」みたいな絶世の名曲を持ってる方にアコギのメロものを渡すというのは、今の僕だったら絶対にやらないんですが、若気の至りというか割と本気でアコギ一本で歌える曲を作るぞ!と思って純度の高いメロディを作るべく、ひたすら自然の中を散歩してメロ探ししてたのを思い出します。
詞先でメロもおのずと生まれた日に書いた日記がこれですね。美しい光景は、美しさを感じる側の自分本位な視点において美しくて、その対象との間に必ずある距離みたいなものを意識してメロ探ししてたんだなー若いなー。

2.Under the Sun feat.ヒダカトオル

90年代サイケですね。ヒダカさんがこのテンポの曲歌ってるのを聞けるのは結構レアじゃないでしょうか。ヒダカさんには「クーラシェイカーっぽいね」と言われました。
ヒダカさんはメチャクチャ頭脳派な面を持っていて、頑なにメロコアしかやらない事でご自身のブランディングを確立してると思うんですが、実際のところ音楽に非常に詳しく、本当はキャパシティが広い人なので、自分が得意としてるミドルテンポにもきっと合わせられるだろうなーと思ってたら、そう思ってた以上にばっちりでした。

ビークルが、みなさんがよく知るメンバーになって再スタートを切った頃、時を同じくして僕はケイタイモ率いるMONGHANGに加入してました。その頃、ケイタくんに誘われてビークルのツアーにローディとして着いてったことがありました。
ヒダカさんとの初対面はその時でした。このツアーでのヒダカさんの姿にはすごく影響を受けまして、彼は移動の車内でずっとメンバーにダメ出ししてたり、みんなが飯食ってる時に一人でレコード屋に挨拶まわりに行ったり、「ああ真剣に音楽をやるっていうのは、良い曲作ったり良いライブやるだけじゃダメなんだな」という、大人として大事なことを背中で教えてくれた人です。

ヒダカさんにも、2006年頃にこの曲を渡してお願いはしていて、やっぱり快諾してくれてたんですが、結局ヒダカさんはビークルが売れちゃってメチャメチャ忙しかったし、僕は僕で宅録のレベルが全然足りず、なんとなく流れちゃってたのを、ようやく歌入れしてもらったのが今年という作品になりました。

水天宮前で朝までしょーもない飲み会をやってたときに、なんかサビのメロができたの覚えてます。この頃はギターを持たずにメロ作ることがマイルールになったばかりの頃だったのと、ビートルズにハマってた影響でシンプルなメロディを作ろうとしてた時期だった気がしますね。そう言えばなんかこのサビメロ、ビートルズの何かの曲に似てますよね?こんな曲無かったっけ。知らんけど。

3.Blowin’ wind feat.E.P.O.

この曲のギターフレーズができたときに、割と自分にとって大事な曲になるんじゃないかと感じたのを覚えてます。古典的なギターアルペジオを敢えて入れるというアイデアが気に入って録音してたら、当時赤ん坊だった娘がふすまの向こうで泣いてるのが思いっきり録音されてしまい、この泣き声をいかしたいなーと思ってずっと手元に置いてました。

ギターのアルペジオフレーズとチェロのピチカートカッティングを中心に構築していくうちに、ドビュッシーのフレーズをオマージュするアイデアが出てきて、自分史上でもトップ5に入るトラックができたなと感じました。このオケをちゃんと聴かせたかったので、メロを乗っけるよりラップが良さそうだなーとは思ってたんですが、この曲のシリアスとファニーが混ざってしまったようなトーンに合わせられるラッパーって誰やねんとなると、この人しかいないと思って元SOUL’d OUTのBro.Hiにお願いしました。これも随分昔に依頼して、今年録音されました。

その赤ん坊の鳴き声が入ってることから、離婚しちゃった家庭に対する想いが抽象的に含まれてるのでシリアスとファニーが混在してるんだろうなーと思ってたんですが、特に本人にそういうことを伝えることなく100点満点のリリックが返ってきて、いや流石すぎるなと。

ちなみに、シリーズ2では基本的に一緒にバンドを組んだ事のあるボーカリストは全員誘いたいなと思っていて、ブラハイ君も実はそんな一人です。私実はE.P.Oの原型であるEDGE PLAYERの初代ギタリストでして。

4.ヤングリバー feat.井上ヤスオバーガー

この曲だけ今年作です。
楽曲を並べて、ある程度アルバムとして成立する流れにはなってたんですが、1曲ボツを出した影響で、3の素晴らしい楽曲の流れを一旦味変する曲が欲しかったんです。

3も5も、ちょっと芸術性の高いラップ曲であることが共通してたので、これを味変する曲はいわゆる「イイ曲」にするのが良さそうだなと。まあアルバムの4曲目といえばベタに考えたら「イイ曲」でしょと。僕はこういう「イイ曲」を作るの得意なので、秒でできました。
問題は誰に歌ってもらうかだったんですが、せっかくnostalgicというコンセプトがあったので、一曲ぐらいは、泣けるアニキシンガーが参加してたら美しいなーと思って、心の電話帳を開いたところ、しゃがれ声で心に突き刺さる歌を歌うタイプのアニキシンガーがたった一人だけいて、それがバーガーさんでした。

井上ヤスオバーガーさんとは十数年前に一度ライブを見た事があって、本当に素晴らしい歌を歌う人で一目惚れしたのが記憶の片隅に残ってました。打ち上げで酷い下ネタをしゃべったのは覚えてたんですけど、割とその程度のツテでアタックした感じでした。

バーガーさんの声を脳内再生しながら作った甲斐があって、歌詞も歌も完璧なやつを乗せてもらえました。飽くまでフォークを軸足にしてはいるものの、いつものバーガーさんとは違った雰囲気を味わってもらえると思うし、バーガーさんの素晴らしい楽曲のほとんどはストリーミングで聴けなかったりするので、そういう意味でもファンの方にも喜んでいただけるんじゃないかと思っています。

5. Heat Haze feat.3syk

今年出したシングル「In The Note For」に続いて、3sykさんの登場です。まあ去年の夏に2曲同時進行でレコーディングしてたんです。
これも20年近く前に作った時点で、3sykさんが合いそうだなーと思ってイメージを膨らませていたので、途中ちょっとファミコンっぽい8bitサウンドが入ってるのは3sykさんのイメージに合わせてアレンジされたものだと思います。

作曲当初の音源はあんまり使ってないと言ったんですが、この曲の生ドラムは当時スタジオに個人練で入って自分で叩いたものですね。

ベースのリフができた時に、こんなもんどうやって曲にすればええねんと思い、そうだラップ曲にしちゃえと思ったはいいが、ラップ曲ってどういう構成で展開作ればええねんというところで当時の僕はだいぶ悩んでた気がします。最終的に、自分しか作れないであろう間奏を何種類も作ってラップの休憩時間にあてていくようなアレンジを編み出しました。中でもアウトロができた時はメチャメチャ興奮して、ブログに「とんでもなく美しいアウトロができた」という、それを言って誰に何が伝わんねんという記事を書いたのをよく覚えてます。
ugazinといえばアウトロですが、僕のアウトロ史上でも最も気に入ってるやつです。

とは言え、オケだけの段階では割と実験作で、どうなるかなーと不安な気持ちもありました。
これを3sykさんに渡したところ、想像以上にこのトラックを評価してくれて、ご自身の集大成のようなリリックを書いてくれて、曲全体のビートが非常にタイトなのに対してリリックがウエットというバランスが見事に絡んで、完全なるホームランに化けた一品となっています。

6.砂を漕ぐ feat.cokiyu

トラックを作った当初、ごく限られた身内複数に「ugazinの曲で一番好き」と言われてすっかり自信持っちゃった曲だったんですが、この繊細なボーカルを再現できる知り合いがいないという問題にぶち当たっていました。
今年になって、個人的にファンだったcokiyuさんにダメ元で凸して快諾いただき、自分にとっては夢のようなコラボが実現したのがこちらになります。

TSUTAYAのポップを見て、なにげなく借りたEbergというアーティストのアルバムにボーナストラックとして収録されていた「Himitsu No Hako」という曲がすごく大好きで何百回と再生していたのがきっかけで、cokiyuさんの存在を認識し、彼女がフューチャリングされている音源を探して聞いたりしていました。

ちなみに、今年よく「何でカエルになったの?」と何度も聞かれていたんですが、僕の風貌がこういう曲を得意としているようにはどうやっても見えないので、風貌を晒す価値が無いと判断したからです。

7.nostalgic

ほぼアドリブで作った曲で、MIDIデータも残ってなかったので、ミックスはしましたが音源はそのままRoland VS840で録音した2003年当時の演奏になっています。
とても恥ずかしいラブソングにでもしようかなと思ったんですが、もうそのままのかたちでアルバムのラストに入れることにしました。それを決めたのも演奏録音したのも、タイトルを「nostalgic」にしようと決めたのも全部ほぼ同時です。

6名のゲストに共通するもの

日本には、「たま」に思い入れのある方なんて100万人ぐらいいるんじゃないかと思います。今回参加いただいたメンバーそれぞれの音楽を愛してやまない方はそれぞれ多くいらっしゃると思います。

ただ、知久寿焼さん、ヒダカトオルさん、Bro.Hi、井上ヤスオバーガーさん、3sykさん、cokiyuさん、以上6名全員のファンだという人って多分この世に僕しかいないんじゃないかと思うんですよね。例えばcokiyuさんのアンビエントな作風を愛している方って、多分BEAT CRUSADERSファンとはほぼ被らないんじゃないでしょうか。

この、一見何の共通項も持たないバラエティに富んだ面々なんですが、最低でも歌声が僕の琴線に触れて「nostalgic」というひとつのコンセプトにフィットすると思わせたというところは共通しているわけです。それが一体どういう共通点なのかは僕でも言語化はできないですが、このアルバムはひとつのコンセプトカラーに則って作っていて、それらの楽曲にフィットしたパフォーマンスを6名ともが発揮してくれています。

本来井上ヤスオバーガーさんに触れる機会が無かったであろうBEAT CRUSADERSファンにバーガーさんの魅力が、本来cokiyuさんに触れる機会がなかったであろうSOUL’d OUTファンにcokiyuさんの魅力が伝わってくれたら。6人いるとこういうのが30パターンぐらいあるわけですが、そういうことが少しでも起きてくれたら嬉しいなと思います。

それぞれがキャリアを持ったアーティストさんですので、この作品もたくさん聞いてほしいですが、各ボーカリストさんの楽曲にも是非触れてほしいです。

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