世界的トッププレイヤーが参加したSMAPのアルバムについて

90年代中盤、森さん脱退直前あたりのSMAPのアルバム(007〜009)は、世界的トッププレイヤーによって演奏されており、アイドルグループのアルバムとしては異色のクオリティになっています。

その世界的トッププレイヤーというのが誰なのかというと、ドラムだけ例に挙げても
フランク・ザッパが彼の歴代バンドで最高だと評しているヴィニー・カリウタや、ウェザーリポート出身でマイケル・ジャクソンのバックドラマーとしても印象深いオマー・ハキムなど、その道の人なら誰もが知るようなプレイヤーが楽曲を支えています。

これは一部のSMAPファンおよびミュージシャンにはよく知られている話かと思います。しかし、SMAPはその後も素晴らしい楽曲をどんどんリリースすることで代表曲を塗り替えていき、また解散してからもいつの間にかかなりの時を経ていることから、ご存じない方も多くなっていると感じたので、ちょっと記事を書いてみます。

僕は個人的にこの森さん脱退直前あたりのSMAPのアルバム(007〜009)に出会ったことで、世界一流のドラマーのどこがどのように凄いかというのを初めて体感できた気がします。これによって、バンドサウンドを聞いた時に「あぁ、ドラムが敢えてタイトにすることでメロディを聞かせてるんだな」とか「後乗りにすることでBPMは早いのにベースラインがたくさん動けてるんだな」みたいな、バンドアンサンブル上で誰が何をやっているのかを理解するというやつに大きく役立ちました。
ドラム以外を担当するミュージシャンにとって、ドラムが何をやってるのか、そのドラムが上手いのか、前乗りなのか後乗りなのか、みたいな事を把握するのは重要なステップです。最初は誰もが分かりません。
僕がこれらを掴めたきっかけは、完全にSMAPのアルバムでした。

SMAPの歌声は邪魔なのか

これらのアルバムを語る上でよく挙がるのが、「あんなに豪華な演奏陣に、酷い歌が乗ってる」みたいな話です。

実際、木村拓哉さんご自身が「この演奏に収録されているボーカルについて罪を問われたら、自分達は終身刑もの」と発言していたこともあり、これらのアルバムを語る上での定説のようになっています。確かにSMAPの歌声は誰のそれをとっても、バックを支える一流ミュージシャンのような巧さはありません。

しかし、私は(ごく一部を除いて)ボーカルの下手さが気になるシーンはありません。
むしろ、ようやく思い描いていたような結果が出せるようになってきた、自信とエネルギーに満ちた歌声に聴こえます。

この頃のSMAPというのは、ちょうど国民的スターの座に上り詰める段階だったと言えます。この3枚のアルバムは1995年から1996年の間にリリースされていて、この期間は『SMAPxSMAP』が開始したり、木村拓哉さんは『人生は上々だ』『ロングバケーション』『協奏曲』といったドラマでその圧倒的人気を不動のものにしていた頃でした。よく知られている通り、デビュー当時のレコード売り上げが(他のジャニーズグループと比べれば)振るわなかったグループが、やっと頭角を現したどころか、それまでのジャニーズグループを完全に凌駕しようというタイミングだと言えるんじゃないでしょうか。そういう勢いが感じられる、脂の乗った声だと感じます。

一流のムキになった演奏を、ポップスで聴ける贅沢

これは完全に私の好みの話になってしまいますが、巧い演奏に巧い歌が乗った、フュージョンやAORのようなジャンルは個人的にそれほど好きではありません。ちょっと脂の乗りすぎたステーキのように感じてしまうのです。
世界的名プレイヤーの本気プレーを聴こうとすると、意外とここでつまづく方は少なく無いんじゃないかと思います。なるほど確かにプレーは上手い気はするが、曲そのものが難解に聴こえてしまったり、日本人には脂っこすぎるような感覚です。超絶プレーが聴けるということでハイラムブロックのリーダーアルバムを聴いたが、なんか思ってたのと違うみたいな経験は、それほど珍しくないんじゃないかと思います。

じゃあポップスで聴けば良いのかと思いきや、シンディ・ローパーやマイケル・ジャクソンを聞いても、なかなか超絶プレーは聞こえづらいかも知れません。何故なら、一流プレイヤーというのは、世界的な名曲においては世界的なスターの歌声を邪魔しないようなプレーをするからです。
私もプロのギタリストとして、ソロボーカリストやアイドルグループのバックで何度かステージに立ってきましたが、「お呼ばれした」バックプレイヤーというのは成長すればするほど、本気を出せば出すほど「そのステージにとって最も重要なのは歌だ」という認識を強め、ディフェンシブな演奏をする傾向があります。むしろ身近な仲間と半分遊びみたいなセッションをしている時こそ、そういった配慮もなくムキになったような演奏で格闘する傾向があるのです。

ムキになると難解な楽曲、お呼ばれするとディフェンシブな演奏、、じゃあ私たちのように飽くまでポップスやロックを好む人間は世界一流のプレイヤーのムキになったプレーをどこで聴けば良いのでしょうか。

そのひとつの回答が、この時代のSMAPのアルバムだと思います。
彼らは、明らかにマイケルジャクソンやジョンレノンに呼ばれた時よりも、気楽に、自由に、奔放にプレーしています。言い方は難しいですが、多分ナメてるというか、程よくリラックスした状態で録音されたんじゃないでしょうか。
その分、彼らの恐ろしいほどの実力がよく聴ける上に、CHOKKAKUさんのような天才的なプロデューサー/アレンジャーがそれを「ジャジーなJ-POP」に昇華していて、見事なまでに我々の耳に聴きやすいかたちで高度な音楽を届けてくれています。

手に入りづらい

ここまで煽っておいて、残念なニュースをお届けすることになるのですが、SMAPのオリジナルアルバムはサブスク配信サービスでは現時点において公開されていません。

私はサブスク解禁されていないアルバムはCDで手元に保持しているのでいつでも聴けるのですが、違法アップロードするのもなんですので、皆さん久しぶりにレンタルするなりなんとか購入するなりして聴いてみてください。

なお、ここで説明した一流ミュージシャンの絶品の演奏は、シングル版ではなくアルバム版を指しています。(シングルも素晴らしい出来ですが!)この点も予めご了承ください。

参加しているミュージシャン

アルバムを手に入れても、クレジットがなかなか読みづらいとか、「スティーブ・ガッドが叩いてる曲だけ聴きたい」みたいな時に割と不便なので、その読みづらいクレジットを読んで一覧表にしてみました。

https://docs.google.com/spreadsheets/d/1-8HaiF-B52aCXtDmYrXEK6NEeD7UJYAOI0IhZSTq59I/edit?usp=sharing

ご査収ください。メンツを見ているだけでもなかなかヨダレが出ます。